お見舞い



ナオは頑張りやだ。

いつもにこにこ笑いながら頑張るねーとよくソピアでも友達に言われていたような気がする。

それはエランシップに乗る資格を持つ候補としてこのステーションアルファに来てからも変わらなかった。

むしろ周りをエキスパート達に囲まれてさらに頑張っていたぐらいだ。

・・・とはいえ、いくら本人が頑張ろうとしてもナオの体力は残念ながら、ばっちり人並みだった。

つまり、ぶったおれてしまったわけである。







(うー・・こんな事になるなんて考えてなかった)

土曜のミーティング後倒れてメディカルルームで過労と判断されたナオはサカキに押し込められた自室のベットの上で思わずうめいた。

(このまま2日ぐらい安静にしてなくちゃいけないなんて。)

せっかくいい感じで能力値が上がってきたところだったのに・・。

ナオは大きくため息をついた。

―― と、その時

プシュッ

「入るぞ。」

端的な言葉とともにノックもなく(いや実際は鍵もかかってないし自動ドアなのだからノックは無理なのだが)入ってきた人物にナオは目を見開いた。

「カイリ君?!」

「ああ。」

「ど、どうして・・」

「倒れたと聞いたのでメディカルルームに行ってみたがいなかったのでこっちに来てみた。」

至極当り前のように相変わらずの無表情でそう言われてナオはちょっと戸惑う。

「探してくれたの?」

「あ、ああ」

その瞬間、カイリの頬がわずかに赤くなった事をナオは見逃さなかった。

(カイリ君が心配して探してくれるなんて・・少しは友達らしくなれたかな。)

・・・カイリの方もおそらく無自覚とはいえ、哀れな事だ。

「それで?大丈夫なのか?」

「あ、うん。ただの疲れだから寝てれば大丈夫だってサカキさんに言われたから。」

「そうか。」

その言葉を最後に落ちる沈黙・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あーえっとお茶でも煎れましょうか!」

先に沈黙に耐え切れなくなったのはナオの方だった。

しかしベットから身体を起こそうとした瞬間、カイリがぱっとナオの額を押さえたのだ。

「カ、カイリ君?!」

「いいから。ちゃんと寝ていろ。治るものも治らない。」

「・・・はい。」

思いのほか厳しい口調で言われてナオはおとなしくベッドに沈んだ。

再び落ちる沈黙。

しかしナオにしてみればさっきの沈黙よりさらにたちが悪い。

なんせカイリの手が額に乗ったままなのだから。

カイリの手は思っていた通り繊細で、予想外に大きかった。

でも・・・・

「カイリ君の手、ひんやりしてて気持ちいいね。」

ポツッとナオが素直な感想を述べた・・・その瞬間、まるでナオの額に触れていた事を今思いだしたかのように、カイリがばっと手を離した。

「?どうかしたの?」

「あ、い、いや。なんでもない。
そうだ。いつまでもここにいては君が休めないな。では失礼する。」

そう言ってカイリはナオがあっけにとられるほどの早さで部屋を出ていってしまった。

後に残されたナオは狐につままれたような気分でベットに潜り込む。

・・・・そして、ふと思いだしたように自分の額に手を当てて呟いた。

「カイリ君の手、気持ちよかったな・・・・」







―― ちなみに廊下に飛び出したカイリが右手を見つめて、ぽつっと「柔らかかった・・・」などと呟いて1人真っ赤になっていた、とは従姉殿をお見舞いにきたカナメの談である。












                                     〜 END 〜